世界は感情で動く 【マッテオ・モッテルリーニ】

 人間の行動は様々なバイアスによって理論的な判断が出来ない時がある。大切なのは第三者の観点から自分を見返そうと試みることで、これにより非効率的な行動を避けることが出来る可能性がぐっと上がる。

 ポイント

 コンコルドの誤謬

 人間は今まで投資した分を取り返そう=「勿体無い」として不適当な投資を継続する傾向がある。読み始めた本がつまらなくても、せっかくここまで読んだ(買ったのだから)と最後までダラダラ苦痛を伴いながら読むのもこれにあたる。

 ビジネスの場でも、損失を出したのに引けないという内面的な理由とは別に、外面的な要因でもこの法則で損失を出す可能性がある。勿論損失を出し続けるのだから、被害は大きくなる一方だ。 例: メンツ、ライバルへの報復、初期判断への非難を恐れる

 こうしたエスカレーションの解毒剤は二つある。第一は、平凡なことだが、トラップを早めに完治して、ゲームの外に留まることだ。
 一旦始めてしまったら、唯一の逃げ道は、これも平凡だが容易なことではない。いうまでもなく、できるだけ早く降りることだ。過去は過去だと割り切って、損失を取り戻そうなどとは考えない。失敗するのはたしかだが、大きな損はしないで済む。

 基準値の誤り

 ある定義を逆説にした場合、それが必ずしも正しいとは限らない。地震が起こったら火事になる確率と、火事になったら地震が起こる確率は全くの別問題。

 こんなトラップにはまらないための最も効果的な方策は、ただ関係づけるのではなく、きちんと比較をすることである。ある判断を下すことになっとき、必ずしなければならないことは、「何に比べて?」と自問することなのだ。

 例えば若者の犯罪が増えたというが、全体の犯罪はどうだろうか。また、若者の人数の上限はどうだろうか。%でいっている場合、若者の母数自体が減っていないだろうか。物事が絶対的なものであると考えず、一つ以上の比較対象を持つようにする。

 大数の法則 小数の法則

 物事の判断の際、直感や見た目で判断すると時に大きなミスに繋がる可能性がある。N数が少ないながら物事の定義をした場合、大局を見誤る時がある。カレー嫌いな日本人を見て、「日本ではカレー屋は儲からない。」一方で人間の脳は無駄な労力の排除をするため、たまたま起こった事象に意味を求める。「スロットで赤が三回連続でその後黒が出た。また赤が三回連続したから次は黒」出目は飽くまで毎回1/2の確率である。

 結論は急がないほうがいい。はじめの直感で答えを出さないこと。数学でも日常生活の場でも、小数については真実であることが、数が大きくなるに連れて多くの場合事実ではなくなるのだ。

 代表性のマジック

 ステレオタイプ。何か特徴的且つ典型的なキーワードがある場合、それがアンカーになってしまう。インド人=計算が得意、ユダヤ人=金に汚い等、これは良い面悪い面どちらにも適応される。

 気をつけなくてはいけないことは、典型的な特徴があるからといって、その人物があるカテゴリーに属していると考えていしまうことである。「いつもニコニコしている人」が「いい人」とは限らない。

 偶然に秩序をみる

 偶発的な事象を構造的だと認識してしまう。これは脳の自衛であり、日々起こる出来事を処理するためそれらが規則性を持っているように関連付け簡易化して対応しようとする。深く考えることを放棄する結果となり、「謎めいたもの」と事象を認識する等深掘りする努力をしなくなってしまう可能性がある。「構造」や「秩序」は実際の所、自分たちの頭の中にしかない。

 確実性効果

 リスクを考えるときそれが0%起きうるものか、100%起きうるものか確率を検討する。この双方に近づけば近づくほど人間は判断を急ぐ傾向がある。がそもそもこのリスク検証が正しいのか、つまりは「直感」や「思い込み」による判断をしてしまい逆にリスクを高める可能性がる。

 多くの場合、最も賢明なやり方は、リスクをたとえば6%から始めてゼロにするのではなく、部分的な減少(たとえば33%から20%へ)を計ることだ。それなのに認知システムが麻痺を起こし、「確実性効果」をねらって「すべてにノーを」と譲らず、ゼロになる道を選ぼうとする。

 アンカリング効果

 販売のテクニックで、ある商品を買わせようとする際にそれよりも高い商品を見せ、またそれよりも安い商品を見せた後で目的の商品を見せる方法がある。高い価格がアンカーとなりお買い得に見せ、安い商品がアンカーとなり客が品質を考慮して真ん中の商品を選ぶという誘導を行う。Amazonのタイムセール(タイムセールや期間限定という情報をアンカーにし今買わないと損をするというアンカーを仕掛ける)しかり、閉店セールしかり、市場にはアンカーが溢れている。

 一方で、アンカーになる数値はうまくカムフラージュされたり、目につかなかったりする。しかしトラップはいたるところで待ち伏せをしているから、その裏を書いてやりたいと思ったら、「目には目を」のやり方がお勧めである。数値や価格に納得がいかなかったら、同じほど極端で逆方向のアンカーを、自分の頭で考えだすのだ。たとえば目の玉が飛び出しそうに高価な家が売りに出ていたら、買うかどうか考える前に、その家の価格がおどろくほど安い場合のことを想定してみるわけである。

 注意の焦点化効果

 事象判断における人間の判断は時に一元的である。給料の高い仕事が必ずしも人生を幸福にするわけではない。給料=仕事への見返りであり、高い給料はそれなりの仕事を要求されるわけだ。時間か肉体労働か、またはその人にしか無いスキルを。こういった要点は常に考えておく必要があり、おいしい話には裏があるとして今注意を向けている問題以外にも検証のポイントを広げるベキだ。

 長い目で見れば、私たちは自分が考える以上に、新たに生まれた状況に慣れてしまい、注意力も日常レベルに戻ってしまう。日常には突出したことはないのだが、それは、単なる「思い描いた」幸福ではなくて、実際に肌で感じる幸福の度合いを決めるものなのだ。

 集団思考

 組織での高等な意思決定の場合、反対意見を言える人間「悪魔の弁護人」を用意する必要があるかもしれない。意思決定の判断にあたり、参加者は横または上下の関係を危惧して反対意見を出せない可能性がある。仮にその判断が間違いとわかっていても。組織の利益を優先できない(=孤立や中傷を回避する等個人の利益を優先する)人間の集まりでは、遅かれ早かれその組織は衰退するであろう。

 強いリーダーが始動性を発揮し周りが「イエスマン」とある場合や、連帯意識や擬集性(結束度合い)の強い集団が、外部の集団や勢力に固定観念を保つ場合などに起きる。1)自分たちの集団に対する過大評価 2)閉ざされた意識 3)均一性への圧力 といった「集団思考」の三類型により以下の欠陥をはらむという。①代替案を吟味しない ②目標を精査しない ③採用しようとする選択肢の危険性を検討しない ④一旦否定された代替案を再検討しない ⑤情報をよく探さない ⑥非常事態に対応する計画を策定できない など。

 他の集団への偏見

 擬集性が強ければ強いほど、他集団への偏見が強くなる。ナチスとユダヤ人、米国における警察官が黒人へ向ける拳銃の引き金を引くスピード 等

 自信過剰

 自己の能力を過大に評価してしまうことで、追加情報が出てきてもそれは自分の判断を補完するためのものという都合のいい解釈をしてしまう。予測の範囲を広げられないため、たまたま買った株の値上がりが自分の能力による為という錯覚や、元から自分で決めた予算内で値切って買った商品への満足等。予測を持つ際や判断をする際、それが客観的に見てどうなのか、一歩下がって見直してみること。

 自分の知識への自己評価は、すべての学習の基本になる。もし何かの知識が欠けていることがわかれば、注意力とエネルギーを注いでそれを補うことが出来る。既に習得したこととまだ習得していないことを識別する能力は、教えて身につけさせなければならない。なぜならこれは、いかなる個々の知識にも勝る、どんなことの習得にも応用できる能力なのだ。

 明るい記憶 保有効果

 人間は時間が立つにつれ過去の判断や物事を自分の尊厳を高める認識をもつ。例えば保有している株式を売れない(将来さらに値上がりがあるだろう)、昔の恋人にもらったプレゼントを捨てられない等。一般的に、人間は損失を利益より嫌う傾向があり手放す代償を保有する代償より大きく見がちである。

 現状維持

 保有効果の基盤と同じで、何かを変える代償を大きく見てしまう。薬の薬効と副作用を見比べたとき、薬効を軽視し(リターン小)副作用を重要視(リスク大)してしまう。仮にその副作用が小さいとしても。アフリカでエイズの蔓延を抑制できないのは、現状維持が最も良いという判断に基づくと分析できる。転職や引っ越しといった生活の転換でもこの傾向は広範囲に見られる。

 先入観のトラップ

 自分の帰属する(と思っている)組織の判断と、他組織の判断を同じレベルで検証出来ない時がある。判断内容がどうであれ、自分の組織の意見を正とし、他者を悪いものと決めつけてしまう、つまりは感情に支配され合理的な判断力ができなくなる。

 これではちょっと救いがたい感じがするが、ここでもまた簡単で効き目のある対抗策は、懐疑心をはたらかせて感情を薄めてしまうことだ。自分の視点とはかなり違った視点を取り入れてみよう。自分の考えとは相容れない情報に真摯に耳を傾けよう。自分の考え方の弱点を正直に認め、自分の信念と対立する考え方の長所をしっかり見つめよう。ポケット版の「悪魔の弁護人」を自分の頭のなかに用意する。

 損失回避性

 損失 > 利益 の傾向で判断を下してしまう。株の売買で損切りが出来ないのはまさにこれ。日経平均の値上がりよりも値下げが大々的に取り上げられるのを見ても、これは個人的な判断だけではなく社会的に見受けられる現象である。

 

 

世界は感情で動く : 行動経済学からみる脳のトラップ

世界は感情で動く : 行動経済学からみる脳のトラップ